土曜日、久しぶりに週末青空が帰ってきた。どうやら梅雨も終わったようである。
東京の空、上を見上げればそれなりに青い。しかし地平線に目をやれば薄茶色にぼんやりとしている。車の排気ガス、工場の排煙、エアコンの室外機から吐き出される熱風で大気は汚れ、首都圏一体は巨大な喫煙ルームと化している。
高村光太郎の智恵子抄に「あどけない話」というのがある。福島生れの智恵子が東京の空を嘆き、郷里の空を懐かしむ有名な詩である。
あどけない話 高村光太郎
智恵子は東京に空が無いという
ほんとの空が見たいという
私は驚いて空を見る
桜若葉の間に在るのは
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ
智恵子は遠くを見ながら言う
阿多多羅山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だという
あどけない空の話である。
地方から上京した人たちは、誰もが智恵子と同じ思いを抱いて生きているのかもしれない。郷里の山野に広がる目映いばかりの青空に、満天の星空。肉体は東京に同化しつつも、魂は郷里を駆け巡っているのかもしれない。
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