Wednesday, August 09, 2006

月夜


0509 173
Originally uploaded by bonkley.

 姉の車を借りて家内たちを福岡の実家に送り届けた。姉は止む無く自転車で仕事に出かけていた。心配する年頃ではないが、帰りが遅かったのでちょっと表に出てみた。外は月明かりが辺り一面をきれいに照らしていた。月夜の晩である。あまりにきれいだったので、カメラを持ち出し姉が戻るまで写真を撮って時間を潰した。
 中原中也の詩に「月夜の浜辺」という詩がある。私はこの詩をまだ結婚する前に、中也ファンの家内から教えてもらった。実に繊細でロマンチックな詩である。

  「月夜の浜辺」  中原中也

  月夜の晩に、 ボタンが一つ
  波打ち際に、 落ちていた。

  それを拾って、 役立てようと
  僕は思ったわけでもないが
  なぜだかそれを捨てるに忍びず
  僕はそれを、 袂に入れた。

  月夜の晩に、 ボタンが一つ
  波打ち際に、 落ちていた。

  それを拾って、役立てようと
  僕は思ったわけでもないが
  月に向かってそれは抛れず
  波に向かってそれは抛れず
  僕はそれを、袂にいれた。

  月夜の晩に、拾ったボタンは
  指先に沁み、 心に沁みた。
  月夜の晩に、 拾ったボタンは
  どうしてそれが、 捨てられようか?

 そうこうしている内に姉は自転車に揺られながら帰ってきた。月夜の晩に私は何も拾わなかったが、写真を一枚撮ることができた。

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