昨年10月に退任した常務の還暦祝いに、当時一緒に仕事をしていた仲間とワインを贈った。在任中は大変お世話になった方で、足を向けて寝られない人である。
何を贈ろうか迷った挙句、取締役の生まれ年に造られたビンテージワインを贈ることにしたのは、我ながらいい考えだった。早速、福岡市内のワインショップに片っ端から電話し、運良く1本手に入れることができた。
私はあまりワインに詳しくないが、手に入れたのはシャトー・カイユとやらの1947年物で、貴腐ワインと言われる種類の物だった。受け取りにワインショップに行ったら、非常に私がタイミング良く問い合わせをしたらしく、「六本木の店舗に1本だけあったんですよ。」と店長がラッピングしながら説明してくれた。そして更に店長は「贈られる方は非常に幸運な方ですね。その方に元々このワインは飲まれる運命だったのかもしれませんね。」と言った。
60年前に造られたワイン。本来白ワインなのだが、60年の歳月をかけその液体は琥珀色に輝いていた。このワインが当時どのくらい造られたかは知らない。しかし、戦後間もない頃フランスの片田舎で造られ、そして常務と同じ齢を重ね、そのうちの何本かがフランスから船で日本に運ばれ、今、ひとりの男のもとに行こうとしているのである。
今日、みんなを代表し私が常務のもとに届けた。常務は何度も「嬉しいな~」と言いながら手に取ってワインを見つめていた。ここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。私たちにしてみれば高価な物であったが、無理して買って良かった。
常務はそのワインの数奇な運命に、自分のこれまでの人生を重ねているかのように、しばらくの間恍惚と眺めていた。
フェイク、フェイク、フェイク!
5 hours ago
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