Saturday, December 23, 2006

春吉橋


 金曜の夜、会社の仲間と飲んだ。1軒2軒とはしごして回り、気づいた時には終電の時刻を過ぎていた。しょうが無くサウナに泊まり、夜を明かした。5時半ごろ天神のサウナを出て、博多駅までの道をひとり歩いた。
 博多の夜明けは遅い。外はまだ真っ暗で、夜が明ける気配は一向にない。中州あたりでは、屋台の片付けの最中で、今しがたまで繰り広げられていた饗宴の余韻がそこらじゅうに残っていた。
 そう言えば昨夜から大した物も食べていない。1軒だけ開いていたラーメン屋を見つけ暖簾をくぐった。
 店内には常連客の男、それにお勤め帰りと思われる水商売風の女性がいた。店主の妻はタバコをくわえ、通りを眺めながら、常連客に正月休みがいつまでか話していた。水商売風の女性はバックからマニキュアを取り出し、左手の小指から塗り始めた。自分の指を塗り終わると、今度は店主の妻の手を取り塗り出した。客のそれぞれが、決して上出来だとはいえない人生に、ささやかな喜びを見つけ生きているような気がした。
  紅生姜が入ったラーメンをゆっくりと食べ、ようやくおなかも落ち着いた。勘定を済ませ表に出ようとしたら、水商売風の女性が不意に顔を上げ、「おやすみなさい」と私に微笑みながら言った。驚いたが私も「おやすみ」と返し表に出た。
 春吉橋を渡り、博多の街の優しさを感じながら、駅へとまたひとり歩いた。夜が白々と明け始めていた。

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