Sunday, October 15, 2006

部長

 金曜日、会社の仲間で六本木通りのバーに飲みに行った。昼間、部長が、バーボンを飲みたいと言い出したので、スタッフを引き連れて行く事にしたのである。
 バーに入ると部長はI.W.Harperをダブルで頼んだ。我々も同じ物を注文し飲み始めた。最初はいつも通り馬鹿話しで盛り上がっていたが、徐々に話が会社の事業再編の事になっていった。
 部長が3杯目をおかわりしたあたりで突然泣き出した。実は事業再編に伴い、部長は関連会社に出向が決まっていたのである。いわゆるリストラである。部長は今までおくびにも見せなかったが、悔しさを堪えていたのだ。出向とは体の良い言い方だが、一旦出向してしまえばもう帰るところはない。会社の犠牲になり、片道だけの燃料を積んで出港しないといけないのである。
 「俺は行きたないんや、みんなと仕事したいんや」声を震わせ部長が叫んだ。皆、目のやり場に困った。返す言葉に詰まった。出向を免れた者が、どんな言葉をかけても慰めにはならない。私は黙って部長の膝に手を置いた。
 平凡なサラリーマン人生であるが、それなりにドラマはある。出会いもあれば別れもある。10月が終われば我が部は解散となり、部長は余所の会社に行ってしまう。そして、11月からはそれぞれのスタートを迎えることになるのである。
 最後に部長が涙を拭い、「カジュアルデーの日に遊びにくるから、その時はみんな集まってランチに行くぞ。服装はみんなベージュのスーツで合わせるぞ。そして夜は六本木金魚に繰り出すぞ!!」とみんなに言って店を後にした。
 部長との約束を守るため、ベージュのスーツを買いに行こう。似合わないかもしれないけど。部長がいつ戻って来てもいいように。

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