Saturday, October 01, 2016

高輪の喫茶店

最後に追加した項目-58

 今週、出張で東京に行った。東京出張の際、よく立ち寄る喫茶店がある。場所は品川高輪。大通り沿いのビルの1階にこじんまりとその店はある。
 店は七十過ぎのおばあさんが一人でされている。熊本出身の方で、結婚して間もない頃は、福岡にも住んでいたことがあるらしく、同じ九州出身と言うこともあって、いつしか店に立ち寄るようになった。

 朝10時過ぎ、出勤前の客も引いて一段落した頃、羽田から品川に着いた私は店のドアを開けた。「あら、今回は早かったのね。」とおばあさんがカウンターの中から私に声を掛けた。前回この店に来たのが6月終わりだったから、3ヶ月振りの訪問だった。
 コーヒーを飲みながら、おばあさんと話をしていたら、今回の震災で熊本の実家を取り壊すことになったと言われた。年に一度、熊本に帰っていたが、もう帰るところなくなったと、表の通りを眺めながらぽつりと言われた。
  この地に店を出して40年。以前は夫と従業員の三人でやられていたらしいが、夫に先立たれ、今は一人で細々とやられている。土日祝日は休みで、平日も病院に行く日は三時頃に店を閉めることもあるらしい。それでも、この界隈で働く常連たちは、毎日出勤前にここでコーヒーを飲み、新聞を読んで出勤する。
 高齢であるため身体のことが気に掛かるが、 「店を閉めようかとも思ったこともあるけど、開けていれば一日ひとつは良いことがあると思って続けているの。」とおばあさんは言う。「ほら、今日だってあなたが九州から来てくれたじゃない。」と私に優しく微笑んで言ってくれた。

 私も定年まであと5年。今の職務が変わらなければ、この店に半年に1回は立ち寄ることができるだろう。あまり無理はして欲しくはないが、できれば私が定年になるまで店を続けて欲しい。私も常連の一人として定年を向かえた時に、「出張は今日が最後になりました。お世話になりました。」と挨拶したいと思ったのだった。







No comments: