Sunday, June 15, 2008

わらび餅

 そろそろ食べ物の事を書こう。訳の分からんことばかり書いて、食べ物の話しはまだかと友人に言われそうだから、そろそろ書かなければいけない。
 昨日も仕事をした。土曜日の事務所は私とスタッフの二人きりでがらんとしていた。昼食を済ませ休んでいると、遠くからチリンチリンと鈴の音が聞こえてきた。わらび餅屋である。ぬっと立ち上がり、あれに聞こえるはわらび餅屋じゃないかとスタッフに言うが、スタッフの耳には聞こえないようである。こうしては居られない。エレベーターで1階に下り、ビルを飛び出した。
 ビルを出て辺りを見回すと、左側にあるクリーニング屋の先を、自転車でリヤカーを引きながら、わらび餅屋がビルとは反対方向に遠ざかっている。小走りに走って追いかけたが、わらび餅屋は私に気付かず、どんどん遠ざかっていく。止む得ず私は声を出してわらび餅屋を呼び止めた。
 五十過ぎの親父が自転車から降りてきた。サイズが大中小とあって、小が350円。小を二つ、私とスタッフの分を頼むと、親父は大きな魔法瓶のような容器のフタを開け、冷えたわらび餅をザルですくい出し、きな粉が入った箱の中に入れて、丁寧にわらび餅をきな粉の上で転がした。
 私はこのリヤカーに見覚えがあった。「冬は焼き芋を売ってませんか?」と親父に尋ねると、よくわかったねと親父はニッコリ微笑んで、焼き芋のことを喋り出した。親父が言うには、リヤカーで売っている人たちはいい芋を使っているらしい。何故かと言えば、車なら不味い芋を掴ませて売り逃げができるが、リヤカーだとはそうはいかないからだと言う。なるほどと思い聞いていたら、いつの間にか客がちらほら寄ってきた。「見かけたら買ってやってください。」と親父は言いながらわらび餅を袋に入れて私にくれた。事務所に戻りスタッフと二人でさっそく頂いたが、今年初めて口にしたわらび餅は冷たくてとても美味しかった。
 夏の風物詩「わらび餅」。私はもう40年近くわらび餅屋を追いかけている。ひとりで追いかけ、娘と追いかけ、いつしか孫と追いかけるのだろうか。

 

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