Saturday, April 14, 2018

宝来軒

IMG_0363

 熊本城のたもとに宝来軒と言う小さな中華料理屋がある。昨年、熊本城を訪れたときから、その小さな食堂が気になっていた。先週、熊本城に行く途中、その食堂で昼食をとることにした。

 大通りの角に面した店の戸を開けると、高齢の奥さんと野球帽をかぶった店主がにこやかに迎えてくれた。時刻は11時過ぎ、店内に先客はいなかった。
 ひと通りメニューに目を通して私は焼きビーフンを、連れ合いは皿うどんを注文した。野球帽の店主が鍋を振るい出す。ガシャガシャガシャ、コンコン、ガシャガシャ、コンコン。中華鍋の中で具材が舞い、お玉が鍋肌をかき回す音が店内に響く。その音を聞きながらできあがりを待つ。そして出てきた焼きビーフンの写真がこれである。
 値段は580円。おそらく値上げもせずに頑張っておられるのだろう。その値段とボリュームに申し訳なく思いながら料理に箸をつける。

 食べ始めて、とあることに気づいた。それは野菜の切り方が長崎風なのである。長崎では皿うどんやちゃんぽんなどに入れる野菜を、千切りにするのである。少なくとも博多では千切りにしない。気になって連れ合いの皿うどんを少し食べてみる。長崎ほどの甘さはないが、長崎の味に近い。さらにメニューを見ると、酢豚ではなく酢排骨(スーパイコ)と書かれている。長崎では酢豚と言わず酢排骨と言う。恐らく長崎で修業されたのだろう。
 ひと通り料理を作り終えた店主に話しかけてみる。創業を聞くと、「もうここに店を出して48年になります。」と言われた。昭和44年、私が小学校に上がった年に、この店はオープンしたことになる。
 私が「長崎で修業されたのですか?」と尋ねると、振り返って「どうして分かったのですか?」と驚かれ、私が「酢排骨」のことを話すと「同業者の方ですか?」と言われ笑ってしまった。
 あとでネットで調べてみると、熊本震災で大きな被害を受け、11カ月かけて昨年3月に店を再開されたらしい。恐らく、ご夫婦ともに八十に近い年齢ではないかと思う。災害に負けず復興された、その熱意と苦労に頭が下がる思いである。

 お勘定を済ませ、奥さんからお釣りを受け取る。厨房の中から「また近くに来たら寄ってください。」と野球帽の店主が笑顔で私たち言う。「また来年来ますよ。」と言って店を出て、大きく膨らんだお腹を抱えて、熊本城へ向かったのだった。




No comments: