先週の金曜日、母の弟が死んだ。享年65才、少しばかり早いお迎えだった。
訃報を聞き、土曜日、斎場へと向かった。斎場へ向かう姉の車の中で昔のことを思い出しながら、私たち姉弟3人が数多い甥姪の中で、一番世話になったのではないかとふと思った。なかなか子宝に恵まれなかった叔父は、私たちをよく花火大会やお祭りに連れて行ってくれたものだった。
斎場には、久しぶりに見る叔父の息子たち、それから親類たちがすでに集まって通夜の始まりを待っていた。通夜が始まる前に、母の妹が私に話しかけてきた。昨夜一晩付き添った夫は疲れ果てている。悪いが今夜はお前たちが通夜守をしてくれないか。私は最初からそのつもりで来ていたので、その役を快く引き受けた。
結局、通夜守は亡くなった叔父の次男と私の二人で行うことになった。1時過ぎ、昨夜ほとんど寝ていない次男を控え室で寝かせ、祭壇の前は私だけとなった。蝋燭、線香の火を絶やさないように気をつけ、祭壇の前の椅子に腰掛けてひとり缶ビールを飲みながら、叔父の遺影を眺めていた。
もうこれ以上ビールを飲むと寝てしまう。私はビールを飲むのを止めた。手持ち無沙汰になったので、蝋燭に火を点しながら横に置いてある鈴を鳴らしてみた。鈴の甲高い音が思った以上に斎場の中に響き渡る。僧侶用の大きな鈴があったのでこれも鳴らしてみる。今度は低い鈴の音が室内で共鳴し、その共鳴がまた共鳴を生むように鳴り続けた。
こんなに音響効果が良いのならば歌を歌ってみたらどうか。試しにちょっと歌ってみると、予想した通りにエコーが効いて上手く聞こえる。これは良いと思い、何か1曲叔父に歌ってあげることにした。何を歌うか迷ったが、レミオロメンの「3月9日」を歌うことに決め、歌詞を携帯で調べた。
誰もいない斎場でひとり祭壇の前に立ち、携帯を左手に持ちながら私は「3月9日」を歌い始めた。時刻は3時を過ぎていた。斎場内に私の下手な歌声がこだまする。控え室で寝ている従弟が起きないか気になったが、かなり疲れていたので目を覚ますことはないだろう。そして夜が明けるまで、弔問客も来ることはないだろう。
歌い進める程にメロディーが安定してきて、歌に気持ちが入っていった。好きなサビの部分に入ると、すこし目頭が熱くなってきた。
瞳を閉じれば あなたが
まぶたのうらに いることで
どれほど強くなれたでしょう
あなたにとって私も そうでありたい
ラーラララー
歌い終えて、これでどうにか役目を果たしたような気がした。叔父に少しだけ恩返しができたような気がした。6本目の蝋燭に火をつけ換え、外へ煙草を吸いに出た。喫煙所の椅子の下にいた野良猫が私を見つけ逃げ出す。暗闇の中、湿った風が吹いている。煙草の煙が、その湿った風の中に溶けていく。夜はまだ、明けそうになかった。
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