
姉たちと筑後川に菜の花を見に行った。河川敷に菜の花は、今を盛りと咲いていた。
結婚する前、家内と菜の花を見に行った時のことを思い出した。家内は弁当を作ってきてくれたが、あいにくの雨。しょうがなく車の中で弁当を食べながら、川辺に咲く菜の花を眺めた。
菜の花が咲く頃、九州では雨がよく降る。この時期降る雨のことを”菜種梅雨”と言うらしい。春雨前線が停滞し、数日降り続くことがある。
ワイパーでフロントガラスの雨を払い、二人で菜の花を眺めた。家内が作ったタコウインナーを食べながら。
そして僕はランチに迷う・・・
友人のマンションに招かれた。昨年暮に購入したばかりの新築のマンションである。中に入ると広いリビングに脅かされた。私が福岡に借りたマンションのリビングの倍はある。おまけに友人は書斎まで作っていた。
書斎に入ったら作り付けの棚に、ミニカーとジャイアンツの選手のフィギアがずらりと並べられていた。よく見ればフィギアはすべて背番号3、長嶋茂雄である。
友人は大の長嶋ファンである。友人の自慢は長嶋茂雄と食事をしたことであり、この話を何度となく聞かされた。
持ってきていたカメラを取り出し、フィギアを撮っていたら友人は一体のフィギアを指差し、そのフィギアを撮ってくれと言い出した。それが写真のフィギアである。
私はそもそも野球を見ない。まったく興味がなくパリーグとセリーグの区別さえ付かない。どうしてこのフィギアをと思って聞いたら、このフィギアは天覧試合でホームランを打った時の長嶋なのだと教えてくれた。
日頃野球を見ない私でも天覧試合のことは知っている。1959年6月25日、後楽園球場で行われた巨人対阪神の試合で、昭和天皇・皇后が見守る中、9回裏に長嶋がサヨナラホームランを打った。時刻は9時12分、天皇が観戦できる時間は9時15分までで、時間ぎりぎりに長嶋は劇的なホームランを放し、任務を全うしたのである。
友人は私の写真の数少ないファンであり、友人のために何枚も写真を撮った。何枚も撮っているうちに長嶋の笑顔が愛しく思えてきた。そして私の後ろで笑っている友人もまた少年のように愛しく思えたのだった。
彼女は現在母子家庭で、今日も飲み会に参加するために、小学生の息子を預けてきたのである。驚いていると彼女はさらに話を続けた。
「その日、彼と初めて飲んで、そしてあの席でデートに誘われました。」
「まだこの店が続いているとは思いませんでした。」
よりによってそんな店を選んでしまったことを申し訳なく思い
「嫌なこと思い出させてしまって悪かったね。」と謝ったら、首を横に振って「いい思い出なんです。」と言ってくれた。