Tuesday, December 19, 2023

画伯のこと

Untitled

 画伯と初めて会ったのは新緑がまぶしい初夏の四王寺の森の中だった。女房と二人山頂を目指している途中道に迷っていると、初老の男性が一人ゆっくりと登ってきて、私たちに道を教えてくれた。
 その男性はこの麓に住んで絵を書いていると言って私に名刺をくれた。主に九州の里山の風景を書いているらしく、今度個展をする際は案内状を出すのでぜひ来てくれと言われ、名前と住所を交換した。以来我が家では彼を画伯と呼ぶようになった。それから半年後、画伯から個展の案内状が届いた。会場は太宰府のとある喫茶店。先日、女房とふたりでその店に行ってみた。

 お店につくと画伯はカウンターの奥に座っていた。私が挨拶すると画伯は立ち上がり、会場内の絵をひとつひとつ説明してくれた。阿蘇、九重、由布岳、それに富士山の絵もあった。写真は購入した画集に載っていた阿蘇五岳の風景である。観音様が寝ているように見えることから、「寝観音」とか「涅槃像」とか言われる風景であり、私の大好きな風景である。

 画伯は3人兄弟の長男で、二男は版画家、三男は家具職人と三人とも芸術家らしい。二男の作品をスマホで検索して見せてくれたが、画伯と同じように里山の風景や古民家を題材にした作品で、画伯の絵と同じ風情を感じる。私も姉と嗜好が似ていて姉弟であることを実感することがあるが、画伯の絵と弟の版画にも明らか似た穏やかな空気を感じた。

 画伯と小一時間話しをして会場を後にした。また今度、四王寺の森の中で画伯に会えるような気がしたのだった。





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